2008年09月30日

解夏



さだまさしの短編小説集。小説『精霊流し』に続く2作目である。

前作『精霊流し』は自伝的小説なので書きやすかっただろうと思うが、今回はどうだろう。少し心配していたのだがけっこう心に残る良い作品ばかりだった。短編なので、若干物足りない感じはあったけれど。

表題になっている『解夏』は映画化もされた。

学校の教師をしている主人公は、奇異な症状に悩まされる。口内や下半身の炎症、そして視力の異常。

それはベーチェット病という不治の病だった。この病気は(あくまでも小説によると)、さまざまな症状と共に、だんだん目が見えなくなっていく。

この病気が完治するとき、それは完全に盲目になったとき。完全に見えなくなると同時に他の症状はピタリと治まり、苦痛から開放されるのだ。

なんともやるせない病だ。

主人公は教師をやめ恋人と別れ、故郷の長崎に戻る。

目が見えなくなるまでに、ふるさとの風景をできるかぎりたくさん記憶に焼きつけておこう。主人公を追ってきた恋人とともに、長崎の町を散策する日々が続く。

そんなとき、主人公はあるお寺の僧侶と知り合う。

僧侶は言う。「あなたの病気は修行なのだ」と。目が完全に見えなくなった瞬間に、あなたは失明する恐怖から開放されるのだと。

タイトルの「解夏」とは、仏教の修行が完了するときのことを指す。

主人公の視力は徐々に衰えていくが、日々はおだやかに流れていく。

あるとき、いつもの散策と同じような雰囲気で、お寺に竜舌蘭を見に行くことなる。しかしそのとき、主人公の視力はほぼ完全になくなっていた。

恋人が異常を察する。

「見えない?」
「うん」
「いつから?」
「さっきからだ」


声をふるわせる彼女に向かって、主人公は言う。

「泣くな。僕が開放される瞬間なんだ」

淡々としたストーリーである。しかしなんと壮絶な物語だろう。

だが人生は続いていく。

ひとつの修行を終え、ひとつ自由になるたびごとに、次の修行が、苦しみが、待ちかまえている。

僕はいつまでそれに耐えられるだろう?
posted by にあごのすけ at 06:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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