2009年09月12日

ウィトゲンシュタイン入門(永井均)



ついに登場! 哲学の巨匠ウィトゲンシュタイン!

……と息巻いているのは僕くらいかもしれないが、そんなことはさておき。

常々思うのだが、果たして日本人に哲学(具体的にいうと西洋哲学)は必要か? そもそも日本人は哲学できるのか?

僕なりに定義しておくと、哲学とは、論理的に(つまり理屈で)考えて、「この世とは何か?」を探求する方法である。

だから、哲学が「万学の祖」と言われるとおり、あらゆる学問の中で哲学的探求がおこなわれている。数学も物理学も、哲学から派生した学問である。

だが、そういう特殊なジャンルで研究しているわけではない一般庶民に哲学が必要か、というと疑問がある。

欧米の場合は事情が異なる。西洋哲学は文字通り、西洋で生まれたものであるわけで、欧米の言語や文法に深く根ざしている。

欧米の言語は、主語と述語がはっきりしていて、時制も明確である。だから論理的な思考が組みやすい。極端な話、何気ない日常会話がそのまま哲学的議論になっていることもありうる。

でも日本語はちがう。

主語も述語も時制もあいまい。論理的思考をするのに向いていない。

だから日本人同士で議論をするとすぐに話が脱線する。

「それは屁理屈だ!」

僕がよく言われる言葉であるが、日本人は「非常識な考え=屁理屈」と思っているフシがある。実は非常識な考えでもスジが通っている場合はあるし、逆に常識的な考えでもスジが通っていないこともある。そのへんを判別するのが日本人は苦手である。

で結局、議論しても最後はうやむやになるか、「まあまあ考え方は人それぞれだから」で終わる。和をもって尊しとなす。そのくせ、自分が正しいと感じたことは根拠が破綻しているのにも気づかず正しいと言い張るからタチが悪い。

だから、ちょっと哲学書でも読んでみようかな、と思っている人、悪いことは言わないからやめときなさい。

哲学的素養がない人が哲学をやっても、自分をちょっと賢く見せるためのツールくらいにしかならんから。哲学的素養のある人間なら、そもそも哲学書を読む前からひとりで哲学を始めている。

さて。我らが日本人のことをケチョンケチョンに言っているように見えるかもしれないが、実はそうではない。実は持ち上げているのである。それはいまから話する。

ウィトゲンシュタインを読むにあたっても哲学の素養が必要である。

たとえばこんなことを真剣に考えたことのある人。

「自分はどこから来たのか?死んだらどうなるのか?」
「神様はいるのかいないのか?」
「自分にはなぜ意識がある?なぜここにいる?」
「この世界は本当に存在するのか?自分がつくった幻なんじゃないのか?」


ただ考えただけではだめで、自分自身で試行錯誤して答えを求めようとしている人でなければならない。

そんな人にとってウィトゲンシュタインは、目からウロコの哲学者になるだろう。

なぜなら彼は、ありとあらゆる哲学的問題の答えをひとりで出してしまった哲学者だから。

具体的に言うと、「哲学なんて無意味だ!」ということを哲学的に証明してしまった哲学者。ウィトゲンシュタインの登場で、2500年の歴史を持つ西洋哲学は終わりを迎えてしまったのである(もちろんそう思っていない学者もたくさんいるが)。

そして彼がたどりついた境地は、日本人の感覚(あるいは中国や日本の禅思想)に非常に近いものだった。

だから哲学の素養がない、まして日本人とくれば、ウィトゲンシュタインはまったくもって理解不能であることもある。他の哲学者なら、入門書を読んで最低「わかったようなわからんような…」くらいに理解することはできても、ウィトゲンシュタインともなるとわかったような気になることすらできない。

「何あたりまえなこと言ってんの?」

ウィトゲンシュタインを学んでも、そう言ってポカンとする人が多いのではなかろうか。実際僕はそういう人間にたくさん会った。

これまで「哲学の素養」と偉そうに言ってきたが、これも表現を変える必要がある。

ウィトゲンシュタインは、哲学する人間を、壷にはまって出られないハエにたとえている。

言ってみりゃ哲学とは、脳という回路の、無限ループに陥るバグなのである。哲学とは「病」なのである。

意味がないとわかっていながらえんえんと哲学的に考えずにはいられないという点でまさにその通り。

僕もまたそのひとりである。
posted by にあごのすけ at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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